2009年10月14日水曜日

「昼まで百合話」Miss YURI verse パネルディスカッション




5月のカーネーション「生産100年」、6月のバラ「RR-1」に引き続いて、10月9日(金)にはオリエンタルユリのプチイベントが開かれました。題して「Miss YURI verse」。説明するまでもありませんが、「ミス・ユニバース」のひっかけです。

あいにくの台風直撃で、前日のセミナーは懇談会に切り替えざるを得ませんでしたが、9日(金)の品種展示、コンテストは盛会に開催することができました。詳細はHPをご覧ください。
10時からのパネルディスカッションは、高知県、新潟県、富山県、愛媛県、大分県、長野県などから70名もが参加いただき、「昼まで百合話」(何のこっちゃ) で盛り上がりました。残念ながら、台風で新潟の生産者の方々のご参加はいただけませんでした。

パネラーをご紹介します。
産地
・JA土佐市高石花卉部 門田賢次氏
・佐賀県 松永花園 松永宏隆氏
花店
・㈱宮本生花 宮本雅行氏
・㈱十三花園 柿本博士氏
・㈱フロリスト・コロナ 上野和人氏
市場
・なにわ花いちば 久保寛史
・ 同        小川兼次

司会は宇田が務めさせて頂きました。テーマは「今のユリに“満足”ですか?」

生産者が満足できないのは、「生産費が上がっているのに市場単価が下がっている」、「1年前から球根を手配しなければならないが、売れ筋商品が見えてこない」です。

花店にはさまざまな業態があり、意見が多様で、消費者ニーズをつかみきれないことが産地の悩みです。場内仲卸の宮本生花さんは葬祭用のシベリアの安定供給、専門店の十三花園さんは巨大輪やねじれた茎などおもしろいユリ、量販店のコロナさんには1束398円の価格が優先されます。産地は高級品、高単価志向であっても、スーパーの束売りが増えている現状では、誰がホームユース用のユリを供給するかが悩ましい問題です。量販店の上野氏からは国内生産者は安売り競争におちいらず、高品質・高単価を目指すべきであるとのアドバイスをいただきましたが・・・。確かに現在高単価をとれる品目はオリエンタルユリ以外にはありません。「高嶺(たかね)の花」であるだけにスーパーでもオリエンタルユリを売りたいのでしょう。

高単価で売っていくためには消費者が品種を選べることが必要です。ところが、オリエンタルユリは生産が特定品種に集中しています。上位3品種シベリア、カサブランカ、ソルボンヌの占有率は57%です(花普及センター調べ)。バラ13%、カーネーション27%、トルコギキョウ15%と比べて特定品種に偏りすぎです。
葬祭にはシベリアさえあればよい、産地は売れる品種を作っている、シベリア、カサブランカ、ソルボンヌで何が悪いなどの意見がありました。市場や専門店は新品種の安定出荷をのぞんでいますが、球根業者は安定供給できれば新品種でないと、新品種について両者で認識が違うことが明らかになりました。また、花屋さん投票の品種コンテスト白花部門で1位になったサンベルナルドは球根生産が中止になったそうです。球根業者にはロットの問題があるようです。種子や苗と違い球根を生産しているのはオランダの「農家」です。そのため、日本の花屋さんや消費者が欲しい品種と球根供給が必ずしも一致しないという問題点があります。ここが育種、球根供給をオランダに全面的に依存しているオリエンタルユリの最大の弱点です。

今、人気の花、ダリア、トルコギキョウ、ラナンキュラス、アジサイはいずれも日本の生産者育種です。オランダにすべてを委ねる花は危険です。ユリは本来、日本原産です。日本で育種をしてこそ日本の消費者に支持されるのです。交配、実生、開花、選抜、球根養成に時間がかかるのは事実です。企業育種としてはリスクが大きいからしないというのもわからないでもありません。そのため生産者育種が必要です。かつて、テッポウユリとタカサゴユリから実生1年で開花する新テッポウユリを作り出した日本の生産者は育種が得意です。
そうでなければ、オリエンタルユリはスーパーの花束や葬祭用になり、専門店からそっぽを向かれます。品種コンテストの花はすばらしいですが、みんな同じ花型草姿です。球根業者、生産者、市場が一体となって新しい品種(タイプ)を消費者に提供していくことが必要でしょう。

会場には、球根業者の横浜植木(株) 折館氏、西尾氏、(株)山喜農園 森山氏、(株)中村農園 中村氏、(株)カド 富田氏、オニングス社 エバート氏、バンザンテン社 ハンス氏、IBC日本コーディネーター レン・オークメイド氏がご参加していただいていました。まさに、ユリ業界のオールスターの顔ぶれです。花産業はキク、バラ、カーネーション、ユリ、鉢物などお役所以上の縦割り組織ですが、ユリ業界の独特の雰囲気、結束の強さが感じられた集会でした。

結局、テーマでは「今のユリに“満足”ですか?」でしたが、司会がまずく、出席者、誰も満足できないまま不完全燃焼で終わったパネルディスカッションでした。しかしながら、このプチイベントは試行錯誤しながら確実に進化しています。次の機会にはさらに掘り下げた議論をしましょう。
なにわ花いちばでは、さらに生産者・花屋さん・消費者に満足していただけるように、新たな仕掛けを試みていきます。

パネラーの皆さま、会場の皆さまおつかれさまでした。












2009年10月10日土曜日

肥沃な大地に決別したコロンビアの花生産に未来があるか

日本のカーネーション生産100年を機に、輸入攻勢に対して反撃に出るべく、(社)日本花き生産協会カーネーション部会では星井会長を先頭に役員、青年部代表がコロンビアの花産業を視察しました。私は記録・報告書作成係として同行しました。といってもJFMA(日本フロラルマーケティング協会)の南米・米国トレンドツアー(2009.9.29~10.6)に参加しただけですが。
1国の花産業をわずか数日の視察で論評することは危険なことですが、私なりにコロンビアの花作りをある程度見切れたと思っています。

1.農業は、「太陽の光」、「気温」、「水」、「土」の4つの自然環境に「人の手」が加わって成り立っています。

2.コロンビアで花が作られている首都ボゴタ周辺は、赤道直下の高地(標高2,500m程度)です。赤道直下ですから光は豊富です。しかも1年中太陽は頭の上を東から西へ移動しています。つまり、太陽を追う植物は直立したまま、茎がまっすぐです。日本は北緯35度ですから、太陽は南に向いた顔の前を通ります。そのため、日本の切り花は茎が弓なりに曲がり、表と裏ができます。これを生かしたのが床の間に飾る生け花です。コロンビアの切り花には表、裏がありません。360度観賞するフラワーデザインに適していますが、趣(おもむき)がないともいえます。月平均気温は毎月14.5℃、つまり1年中大阪の4月の気温です。

3.雨量は1,000mmで、大阪の1,400mmに比べると少ないですが、オランダの765mmよりは多い。

4.土は関東ローム層黒ボクに似ており、水はけがよく、耕土が深く、肥沃そうです。

5.しかし、カーネーション栽培では隔離ベンチ栽培、しかも土の厚さ10cm程度で、日本でいうところの「少量培地耕」です。用土はなんと「もみがらくんたん」(コロンビアにも稲作があるそうです)に、たい肥混入。土は毎作入れ換えです(画像参照)。

図1 もみがらくんたん少量培地耕



図2 少量培地耕定植前



図3 労働者による土出し作業



図4 土とカーネーション株を搬出



6.なぜ肥沃な大地で土耕をしないのでしょうか。7年ぐらい前から「隔離ベンチ栽培」に変わったそうです。それは立ち枯れ性病害の被害から逃れるためです。涼しい国ですので、病原菌はバクテリアのPseudomonasではなく、オランダと同じカビであるFusarium oxysporumでしょう。いわゆる連作障害です。なぜ、短期間で連作障害がでたのでしょうか。私なりに考察してみました。

①生産規模が大きすぎ、コストがかかり、さらに完全消毒は不可能なので土壌消毒ができない。

②各種認証取得が自縛となって土壌消毒を採用できない。

③エコのために、ハウスの屋根に降った雨をハウス周辺の水路に流し、回収している。雨だけなら問題がないが、ハウス土壌からしみでた水まで水路に流れるので病原菌が混入する。病原菌は水を少々殺菌しても退治できない。退治できるほど殺菌すると、強力な殺菌が必要になり、コストがかかるうえ、環境にやさしい認証に反する。

④苗は母株を買い、ロイヤリティを払って増殖をしている。この自園での苗生産の過程で病原菌に汚染。生産規模が大きくなるほど感染の危険性が高まる。

7.さて、コロンビアでの「もみがらくんたん・少量培地耕」は成功するでしょうか。無理です。少量培地耕はとことんやり尽くしたオランダなど先進国の最終一歩手前の農業システムです。気候と土壌に恵まれた発展途上国の農業ではありません。もうすでに行き詰まりつつある兆候が現れています。 立ち枯れ性病害の発生とわずかな土(しかももみがらくんたん)で゙1.5年~2年栽培するため株の衰弱です。

8.ではなぜ、コロンビアの花作りは肥沃な大地を捨て、リスクが高い「もみがらくんたん・少量培地耕」に追い込まれたのでしょうか。しかも1農園だけでなく視察をした全農園すべてがです。

①農耕民族農業と狩猟民族農業の哲学のちがいです。農耕民族である日本の農業は「持続」農業です。先祖伝来の限られた土地を「一所懸命」守り、作物を収穫しつづけます。2,000年間かわらずに稲を作ってきました。狩猟民族農業は「収奪」です。獲れるだけ獲って次の土地へ移動する農業です。

②独立した企業が経営する農園でありながら、なぜ、どの農場も同じ「もみがらくんたん・少量培地耕」なのでしょうか。コロンビアには営業、財務、労務などのスペシャリストはいても栽培のスペシャリストがいないのではないでしょうか。そのため、栽培を機械的にとらえ、ひとつの成功(するらしい)マニュアルがあればすべての農園に適応できると考えたのでしょう。まさしくリーマンブラザーズやGMの破綻で露呈した「ものづくり」軽視です。財務や金融はパソコンの前に座るだけで膨大な仕事ができますが、栽培技術者は自分の目で見られる範囲に限られます。技術者養成に年月がかかります。管理できる面積もわずかです(日本人なら0.5haが限度)。

9.どの農場も同じ栽培システムであることは品質が統一され、コロンビアの強みにはなっています。反対に日本は自立した考える小農の集団ですので、品質の統一が苦手です。

10.コロンビアの花作りの終焉が近いからといって、日本の生産者がハッピーになれるわけではありません。企業家はもっと季候が良く、労賃が安い国へ移って花を作り、輸出をするだけですから。 国内花生産は腰を据え、戦略を打ち立てなければなりません。


では、会長以下、役員、青年部代表がコロンビアの花産業を視察した(社)日本花き生産協会カーネーション部会は、生産200周年の2109年に向け、何をしなければならないか・・・。2009年10月3日(土)深夜(現地時間)、ボゴタのホテルの一室で策を練りました。この日のことは日本カーネーション生産200年史(2109年発刊予定)に記録されるはずです。

その戦略は来年1月のカーネーション大会で報告します。


       (社)日本花き生産協会カーネーション部会 コロンビア調査団

 維新前夜の志士のごとき面構え、決意の眼差しを見よ(ボゴタのホテルの一室にて)