日本のカーネーション生産100年を機に、輸入攻勢に対して反撃に出るべく、(社)日本花き生産協会カーネーション部会では星井会長を先頭に役員、青年部代表がコロンビアの花産業を視察しました。私は記録・報告書作成係として同行しました。といってもJFMA(日本フロラルマーケティング協会)の南米・米国トレンドツアー(2009.9.29~10.6)に参加しただけですが。
1国の花産業をわずか数日の視察で論評することは危険なことですが、私なりにコロンビアの花作りをある程度見切れたと思っています。
1国の花産業をわずか数日の視察で論評することは危険なことですが、私なりにコロンビアの花作りをある程度見切れたと思っています。
1.農業は、「太陽の光」、「気温」、「水」、「土」の4つの自然環境に「人の手」が加わって成り立っています。
2.コロンビアで花が作られている首都ボゴタ周辺は、赤道直下の高地(標高2,500m程度)です。赤道直下ですから光は豊富です。しかも1年中太陽は頭の上を東から西へ移動しています。つまり、太陽を追う植物は直立したまま、茎がまっすぐです。日本は北緯35度ですから、太陽は南に向いた顔の前を通ります。そのため、日本の切り花は茎が弓なりに曲がり、表と裏ができます。これを生かしたのが床の間に飾る生け花です。コロンビアの切り花には表、裏がありません。360度観賞するフラワーデザインに適していますが、趣(おもむき)がないともいえます。月平均気温は毎月14.5℃、つまり1年中大阪の4月の気温です。
3.雨量は1,000mmで、大阪の1,400mmに比べると少ないですが、オランダの765mmよりは多い。
4.土は関東ローム層黒ボクに似ており、水はけがよく、耕土が深く、肥沃そうです。
5.しかし、カーネーション栽培では隔離ベンチ栽培、しかも土の厚さ10cm程度で、日本でいうところの「少量培地耕」です。用土はなんと「もみがらくんたん」(コロンビアにも稲作があるそうです)に、たい肥混入。土は毎作入れ換えです(画像参照)。
図1 もみがらくんたん少量培地耕
図2 少量培地耕定植前
図3 労働者による土出し作業
図4 土とカーネーション株を搬出
6.なぜ肥沃な大地で土耕をしないのでしょうか。7年ぐらい前から「隔離ベンチ栽培」に変わったそうです。それは立ち枯れ性病害の被害から逃れるためです。涼しい国ですので、病原菌はバクテリアのPseudomonasではなく、オランダと同じカビであるFusarium oxysporumでしょう。いわゆる連作障害です。なぜ、短期間で連作障害がでたのでしょうか。私なりに考察してみました。
①生産規模が大きすぎ、コストがかかり、さらに完全消毒は不可能なので土壌消毒ができない。
②各種認証取得が自縛となって土壌消毒を採用できない。
③エコのために、ハウスの屋根に降った雨をハウス周辺の水路に流し、回収している。雨だけなら問題がないが、ハウス土壌からしみでた水まで水路に流れるので病原菌が混入する。病原菌は水を少々殺菌しても退治できない。退治できるほど殺菌すると、強力な殺菌が必要になり、コストがかかるうえ、環境にやさしい認証に反する。
④苗は母株を買い、ロイヤリティを払って増殖をしている。この自園での苗生産の過程で病原菌に汚染。生産規模が大きくなるほど感染の危険性が高まる。
7.さて、コロンビアでの「もみがらくんたん・少量培地耕」は成功するでしょうか。無理です。少量培地耕はとことんやり尽くしたオランダなど先進国の最終一歩手前の農業システムです。気候と土壌に恵まれた発展途上国の農業ではありません。もうすでに行き詰まりつつある兆候が現れています。 立ち枯れ性病害の発生とわずかな土(しかももみがらくんたん)で゙1.5年~2年栽培するため株の衰弱です。
8.ではなぜ、コロンビアの花作りは肥沃な大地を捨て、リスクが高い「もみがらくんたん・少量培地耕」に追い込まれたのでしょうか。しかも1農園だけでなく視察をした全農園すべてがです。
①農耕民族農業と狩猟民族農業の哲学のちがいです。農耕民族である日本の農業は「持続」農業です。先祖伝来の限られた土地を「一所懸命」守り、作物を収穫しつづけます。2,000年間かわらずに稲を作ってきました。狩猟民族農業は「収奪」です。獲れるだけ獲って次の土地へ移動する農業です。
②独立した企業が経営する農園でありながら、なぜ、どの農場も同じ「もみがらくんたん・少量培地耕」なのでしょうか。コロンビアには営業、財務、労務などのスペシャリストはいても栽培のスペシャリストがいないのではないでしょうか。そのため、栽培を機械的にとらえ、ひとつの成功(するらしい)マニュアルがあればすべての農園に適応できると考えたのでしょう。まさしくリーマンブラザーズやGMの破綻で露呈した「ものづくり」軽視です。財務や金融はパソコンの前に座るだけで膨大な仕事ができますが、栽培技術者は自分の目で見られる範囲に限られます。技術者養成に年月がかかります。管理できる面積もわずかです(日本人なら0.5haが限度)。
9.どの農場も同じ栽培システムであることは品質が統一され、コロンビアの強みにはなっています。反対に日本は自立した考える小農の集団ですので、品質の統一が苦手です。
10.コロンビアの花作りの終焉が近いからといって、日本の生産者がハッピーになれるわけではありません。企業家はもっと季候が良く、労賃が安い国へ移って花を作り、輸出をするだけですから。 国内花生産は腰を据え、戦略を打ち立てなければなりません。
では、会長以下、役員、青年部代表がコロンビアの花産業を視察した(社)日本花き生産協会カーネーション部会は、生産200周年の2109年に向け、何をしなければならないか・・・。2009年10月3日(土)深夜(現地時間)、ボゴタのホテルの一室で策を練りました。この日のことは日本カーネーション生産200年史(2109年発刊予定)に記録されるはずです。
その戦略は来年1月のカーネーション大会で報告します。
(社)日本花き生産協会カーネーション部会 コロンビア調査団
維新前夜の志士のごとき面構え、決意の眼差しを見よ(ボゴタのホテルの一室にて)