暖地の花生産者にとって、春の彼岸の市況は経営的、精神的に大きな影響を及ぼします。
高い重油、灯油を焚いてハウスを暖房し、ひたすら彼岸に花を咲かせることを目標に、手入れをしてきたのですから。1月、2月は売り上げよりも暖房経費のほうが多くかかっています。それだけに、彼岸の市況が低いと意気消沈で、将来が一挙に不安になってしまいます。
幸い、今年の彼岸は花屋さんのがんばりで、そこそこ花が売れたようです。産地もなんとか息をつけたといった状況でしょうか。
この彼岸商戦から、今の花産業の問題点が見えてきます。
①春の彼岸に花を咲かせる作型は、もっとも生産コスト、暖房経費がかかります。そのため、生産者は経営全体をみすえて、コストのかかる彼岸を減らし、コストがかからない春などに生産の重点をシフトする傾向があります。これは燃油高騰の対策として、行政が指導している点でもあります。
②その結果、彼岸に必要な量が供給できなくなります。国内で生産と消費が完結していた時代なら、「供給不足→価格高騰→翌年は生産過剰→暴落→」となっていました。「高値」が忘れられない、ばくち大好きの生産者にとっては面白い時代でした。
③今は安定供給が最優先です。春の彼岸、卒業式などで、決まった量の花が必要です。国内生産者が供給できなければ、供給先を世界に求めるのは当然です。国産が減った分だけ輸入が増える、「悪循環」におちいります。輸入が増えたから国産が減ったのではなく、国産が減ったから輸入が増えたのです。
④そんなことは生産者は百も承知です。作っても市況が安く、儲からないから作らない、作らないから輸入が増える、輸入が増えると単価が下がる・・・。卵が先か鶏が先かの議論になってしまいます。
⑤生産者には、高品質の花を作るDNA、匠のわざのDNAしかありません。それだからこそ、前回紹介したように、ニューヨークっ子を驚かせる、世界に通用する日本の高品質な花を作ることができるのです。大工さんにも旋盤工にも日本人にこのDNAがあるから、小国日本が世界で生きていけるのです。
⑥今必要なことは、従来からの高品質な秀2Lをめざす経営と、高品質なMクラスの花をめざす経営の分離、すみ分けです。ホームユース、家庭に飾る花はすでに定着しています。消費者がそれらを手に入れるのはスーパーマーケットや量販店ということも定着しています。「カジュアルフラワー」は「安かろう悪かろう」のイメージが強く、各方面からさんざん非難され、言葉としても、実際の花としても定着することができませんでした。その後、ユニクロの登場で、カジュアルのイメージが一挙に向上しました。
⑦カジュアルフラワーという言葉の復権と、ユニクロのように高品質なカジュアルフラワーを生産する経営、生産者、産地の登場がのぞまれます。すなわち、秀2Lをめざしたけれど、手入れ、ハウス環境がうまくいかずにMになったMではなく、Mをめざした高品質なMの生産です。これが今求められるカジュアルな花です。そのためには、品目ごとにカジュアルな花の高品質とはどんな品質かの定義、目標が必要です。その品質目標(当然、坪当たりの収量目標も)に向けた栽培技術を組み立てることが緊急の課題です。