2010年10月27日水曜日

日本の育種力が低下しています


日本人は園芸好きの国民です。江戸時代には、大名から庶民まで、さまざまな花、植木を育て、楽しみ、人が持っていない珍しい品種を作り出すことに熱中していました。それは、産業として花作りが始まった明治以降も引き継がれました。その日本人が得意な品種改良が危機的な状況にあります。その輸入が急増しています。かつての花生産先進国であったドイツ、アメリカ、オランダのように、日本の花生産も壊滅してしまうのでしょうか。実は、切り花の輸入より、品種、たねや苗、球根の海外依存のほうが日本の花産業にとって、危機的な状況にあります。
日本の品種改良の強さ、弱さをあらわす指標として、「育種力(いくしゅりょく)」を考案しました(そんな大げさなものではありませんが)。




それは、(財)日本花普及センターが公開している全国24市場の品目ごとの入荷順位リストを用います。
ベストテン品種うち、国産品種の割合(取り扱い数量)をパーセントであらわしました。100はすべて国産品種で育種力が強い。0はすべて外国品種で育種力が弱い品目としました。上の図1です。
育種力100は、輪ギク、トルコギキョウ、リンドウ、スターチス・シヌアータ、ストック、ヒマワリです。ダリアは97、ラナンキュラスは92、スプレーギクは91です。
これらは、育種力が強い、すなわち国産品種ががんばっている、強力なオリジナル品種を持っている品目です。国際競争で勝てる品目です。ただし、国産品種が海外に流出してしまい逆輸入に苦しむ輪ギクは別です。

反対に、育種力0は、スプレーバラ、オリエンタルユリ、LAユリ、アルストロメリアです。

ガーベラは7、スプレーカーネーションは13、スタンダードカーネーションは20です。

これらは育種力が弱い品目で、海外品種(ほとんどはオランダ)に依存してます。コロンビア、ケニア、中国、韓国などと同じ品種を作っており、国際競争に耐えられない品目です。ユリ、アルストロメリアの輸入は多くはありません。しかし、球根をすべて海外に依存していては、日本の消費者の好みに対応することができません。

スプレーギクとカーネーションの輸入割合(2009年)は、どちらも40%です。同じ40%でも、育種力が弱く品種のほとんどを海外に依存しているカーネーションのほうが圧倒的に危機的な状況です。育種力がある程度強いスプレーギクは輸入との棲み分けで、まだがんばれます。

品種改良が大好きな日本(人)の育種力がなぜ低下したのでしょうか。

それは、種苗会社の育種力の低下です。



図2は、全国のたね屋さんの組織である(社)日本種苗協会が主催する品種コンクールに出品された品目数と出品品種数の推移です。これは種苗会社が品種改良した新品種のコンクールで、金賞を取ることは大変な名誉です。そのコンクールにおいて、1992年には、18品目306の新品種が出品されていましたが、2009年には4品目(トルコギキョウ、スターチス、パンジー・ビオラ、ペチュニア)85品種に減少しています。つまり、権威あるコンクールに出品する新品種がないということです。

種苗会社にとって、野菜のたね(品種)は大量に売れますが、多種目少量生産の花のたね(品種)は儲からないということでしょう。さらに、品種改良はできても、雨が多い日本の気候は、たね採りや球根の増殖には適していないという問題もあります。ユリは日本の原産でありながら、テッポウユリを除いては、国内では球根生産ができていません。

このように考えてくると、日本の育種力が低下したのは、品種改良をする力が弱くなったのではない、といえます。それどころか、ダリア、ラナンキュラス、トルコギキョウなど多くの花では農家による育種(生産者育種)が成果をあげています。

日本の弱点は、品種改良で作り上げた新品種のたね、苗、球根を安く生産する、種苗ビジネスの経営です。総合種苗会社、専門種苗会社が、花の消費拡大、国内花生産の持続に大きな役割を担っています。